前回の記事で、インドに旅行するならインド系列で老舗のタージとオベロイホテルが良いと記載しました。この2社はもう80年以上もホテル業に携わっていて、インドを代表するホテルブランドです。
さて、両方ともとても良いサービスを提供する事は一致していますが、実は始まりやコンセプトは非常に対照的で面白いです。
<オベロイはイギリス的、タージはイギリスが反面教師>
まずはスタートが面白い。
オベロイの創立者であるM. S. オベロイ氏は、幼い頃に父を亡くし、母と兄弟と暮らして決して裕福な家庭ではありませんでした。
イギリス植民地時代の1920年代にシムラにあるセシルホテル(今はザ・オベロイ・セシル)でベルボーイとして就職し、とても働き者であった事がイギリス人マネージャーの目に留まりました。
当時、シムラは大英帝国の夏の首都であり、涼しい気候がこの地を栄えさせました。スコットランドのサーモンも平地から列車でこの山の上の都市まで運ばれていたそう!
このマネージャーの名前はクラークス氏で、彼は近所に別のホテルを経営していましたが、なんとオベロイ氏が36歳の誕生日になる前日に、そのもう一つのホテルを譲渡しました。どうやら優秀なオベロイ氏のお蔭で、稼働率も上がり、彼の能力を買った様です。
それが、1934年の話で、オベロイホテルの第1号、現在のクラークス誕生です(ランク的には4つ星)。この年に、今も尚存在するオベロイグループが創立しました。
その後、コルカタにあるイギリス人経営のグランドに目を向けました。
ここはゴキブリやネズミが多く住むようになってしまい、とてもホテルとしての経営ができない。だから、オベロイ氏がここを安く買い取り、徹底的に大改築し、超豪華ホテルにしました。今ではコルカタを代表するホテルですね。そして、インドの各主要都市にオベロイホテルが建てられるようになりました。
始まりがイギリス人の元先輩や上司にとても可愛がられたため、全体的にホテルの雰囲気がとても「イギリス」な感じがします(どう表現したらよいか分からないけど、イギリスの田舎にある様な暖かみがあるこじんまりしたB&Bに共通した雰囲気)。正に、イギリス式の伝統の良い部分を今でも反映していると思います。
さて、対するタージ。
これは発端が、イギリス人による人種差別によって受けた悔しさが、一流ホテル業に展開しました。
時は20世紀初頭。当時ボンベイ(現ムンバイ)の白人専用ホテルであるワトソンホテルで宿泊拒否をされたタタ・グループの創立者、J. J. タタ氏が近所に誰でも泊まれる豪華な素晴らしいホテルを造るぞ!と熱を込めて建設されたのが、今のタージ系ホテル第1号のタージマハール・パレスホテル。
1903年に創立したのでもう100年以上の歴史があります。70年代に隣に無機質な新館が建てられましたが、是非泊まるのであれば歴史ある旧館を指定するのがベストです(もちろん、料金もアップしますが)。
イギリスに対抗してできたのがタージグループであり、オベロイと異なり、かなり「ザ・インド」を主張した内装が特徴です。
<オベロイはシンプルな内装、タージは多様な色彩を用いた内装が特徴>
オベロイのホテルはどこ行っても落ち着いた、空間を強調したシンプルなデザインが多いです。
北欧的というか、エレガントな感じがして、あまりインド色を強く出していません。
タージは、先ほども記載しましたが「ザ・インド」を強調する傾向がありますが、でもそんなギラギラした感じでは無く、バランス良く落ち着いています。
お部屋は、どちらも落ち着いています。
<オベロイはSmall is Beautiful派、タージはBig is Beautiful派>
両ブランドもインド国内だけでは無く、海外展開もしていますが、運営の戦略が異なります。
オベロイはあまり事業拡大をせず、そんなにホテルの数としては多くありません。その代わりにホテルの管理体制を徹底して、ブランドとしての一貫性を強く保っています。
そのため、大体どのオベロイ系のホテルは、世界トップ〇位に受賞した、と自慢の経歴が多いです。そして、ラグジャリー系なオベロイと、お手頃価格系のトライデント(+シムラのクラークスとデリーのメイデンズ)と2つのブランドがありますが、サービスの質はどちらも整合性があります。インドで唯一だと思われるホテル自社のスタッフ育成学校があり、従業員の多くはここでホテル業について学習させるため、プロが多いです。
対するタージは主要な都市ならどこにもあり、同じタージ系列でも宮殿ホテルから、ビジネスホテルの様なゲートウェイブランド等様々な予算グループに合わせて運営しています。これだけ大規模になるとオベロイの様に「中央の管理」体制では無く、各ホテル内個別で管理し、サービスを提供している様でもあります。
<まとめ>
旅行者として、惹かれるのはタージが大きいでしょう。何故かというと、やはりレイクパレス、ウマイドバワンパレス、ランバーグパレス、ファラクヌマパレス等の宮殿ホテルを運営し、「目玉」があります。そして、大体どの場所にもタージ系列のホテルがあるから、指定しやすい。「インド的なデザイン」を強調しているため、インドの雰囲気を体験するには良いチョイス。
対するオベロイは、宮殿ホテルは無く、イギリス時代の名残のあるヘリテージホテルがせいぜいの目玉。あとは、アマルヴィラス「全室タージマハールを間近に見える」とか、山頂にある究極の山岳リゾート、ワイルドフラワー・ホール等特徴が無い限り、あまり表に出しにくい部分があるのは否定できません。
その分、オベロイは安定したサービスで勝負し、これはどこのホテルと比べてもトップレベルでしょう。やはり、これはベルボーイという立場から先輩や上司に訓練されたスタートがあり、インドのホテル業の王は今亡きオベロイ氏だと思います。
だからと言って、タージも宮殿ホテルレベルになると非常にサービスが手厚く、最高の思い出になる事も。コンセプトは違えど、どちらも共通しているのは「お客を精一杯歓迎する」というところです。